キングとジャックの関係について、クイーンの見解
「ねえ、あんた古泉くんと結構仲良くなったわよね」
帰りのホームルームをやりに担任の岡部教師が訪れるまでの浮き足だった放課後、一年五組の教室で俺の後ろに陣取る我らがSOS団団長様がいきなり発言をなされた。唐突すぎるのはいつものことだが、今回の話題は意外の中の意外というものだったせいか俺は思わずいつもよりちょっと早く振り向いてしまった。
「……なんでそう思うんだ?」
「んー……なんとなく」
なんとなくってどうなんだと言いたくなるが、こいつが意外に鋭いことを俺は知っている。
まあ、ハルヒの言葉は合っている。俺と古泉はそういう仲なんだ。そういう仲とはどういう仲なのかは察してくれ。
「古泉くんってさ、初めて会った時不思議な感じがしたんだよね。あのあんたとは違って人当たりの良い笑顔が人を寄せ付けそうで、実は寄せ付けなさそうな雰囲気っていうのかな。人と深く関わろうとしないようにしているって思ったの」
お前もそう感じてたのか。
「お前もって、あんたも?」
「なんとなくな」
岡部が入ってきてホームルームが始まったが、ハルヒとの会話の内容にに興味があった俺は会話を続行した。
答えから言ってしまうと、ハルヒの言う通り、古泉は俺から見ると胡散臭いあの笑顔で人と深く関わろうとしないよう意識的にしている。超能力者、『機関』というのがあっていつ自分がここを離れることになってもスムーズにいくように、日常からそうし向けている、というのが古泉の言葉だ。何度か訪れたあいつの部屋も必要最低限しかない、本当に寝に帰るみたいな居住スペースだという印象を受けた。
このことはハルヒには内緒と言われているので古泉があの笑顔を絶やさないのかという根本の理由は言えないが、ハルヒは持ち前の勘の良さでどことなく察しているようだ。
「で、もっとのびのびしたらいいのにって思ってたの」
そう出来たらいいが無理だろうな。
って、思ってたって過去形か?
「うん。少し前に気付いたんだけど、ちょっと柔らかくなったっていうのかな。がちがちで規則に固められていたのを少しだけでも解放されたような感じ」
まだまだのび足らないけど、とハルヒはまだ続ける。
「あんたとゲームしてる時が特に。たぶんゲームをして、ちょっとしたストレス発散になってるんじゃないかしら」
負けてばっかりだがな。
「古泉くんにとってキョンに対する勝た負けの意味はあまり関係ないんだと思うのよね。勝負の結果じゃなくてゲームをすることに意義がある、とか」
弱すぎると常々思っていたが、そういうことなのかね。
「たぶんそうよ。ゲームの種類もどんどん増えているし、色んなゲームをやりたいのよ」
じゃあなんで相手が俺なんだ?
「同じ男子だから気兼ねなくていいんじゃない? それにキョンとゲームしてると楽しそうなのよ。あんた以外に相手してるところを見たことないから確信はないけど」
まあなんとなく理由は解るかもしれん。
「でも、ちょっとほっとしたわ」
「どうして?」
「だって古泉くん、いい方向に変化しているような気がして。最初はあんな調子だったからちょっと心配だったのよ。あんたとゲームをしてるお蔭かしらね」
あんたにしては出来るじゃない、ってのは一言二言余計だ。
俺も当初は冷戦な雰囲気を持った喧嘩に近いものを時々していたし、たまに素っ気ないこともあった。今じゃ、俺たちの関係というのも相俟ってそんな雰囲気は一切ない。だからいい方向に変化している部分が表面に滲み出てきているのかもしれないな。
「古泉くんはSOS団副団長で、私たちの大切な仲間なんだもの。その活動で楽しいって思って貰えてるなら嬉しいわ」
じゃあ先行ってるわよ、と言ってハルヒはちょうど岡部がホームルーム終了を告げたと同時に、運動部が何度も入部を懇願するのも納得な足の速さで駆けて行った。いつでも元気で、病気知らずに駆け回る子犬のような奴だ。
静かになったところで鞄の中を整理しながら(教科書を置いていくのはもう習慣だ)俺はハルヒとの会話の内容を巻き戻した。
ハルヒは古泉が変わったと言っている。それは間違いではないだろう。古泉がSOS団に想像以上の好意を持っていて、SOS団として放課後をのんべんだらりんと過ごしたり、休日に不思議探索したり、どこかに合宿に行くのが楽しいと言っていたのは確かだ。それが少し表面に出てきているのかもしれない。本人は隠しているつもりなんだろうがな。
古泉にハルヒとの会話の内容を話そうかあえて話さないでおこうか俺はちょっと楽しくなりながら考えた。それと、今日はあいつがやりたいというゲームをしてやろう。負けるつもりはないがな。
今日も楽しくなりそうだ。
古泉、お前の思っている以上にハルヒはお前を見てるぞ。
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