あの理由、約束。それが総ての始まり


理由と約束、それが故の今



 夢を見た。七年前の苦労ばかりだったけど、楽しかった、優しかった頃の。ただ一人の友達と約束を契った夢を。
「……覚えてるか、スザク」
 眼を刺すように強い光が差し込む中、そっと呟いた。



「ルルーシュ」
 昼食を食べる手を止め、スザクが顔を上げた。俺も顔を上げると、翠の眼が真っ直ぐに見ていた。
「懐かしい夢を見たんだ」
 真っ直ぐな眼が懐かしむようにふわりと細くなる。
「君と交わした約束。その夢を見た。ルルーシュ、覚えてる?」
 嗚呼、と俺はほっとした。覚えていた、ただ一人の友は、と。自分だけが覚えていて、スザクが忘れていたら、ずっと己の中で閉まっておこうと決めていたから。
「もちろん、覚えてる」
 二度と自分の為に自分の力を使わない、『僕』を守る為に力を使いたいと願ったスザクに、俺は理由を。『俺』がスザクの為に力を使う、と。理由のない善意が信じられない俺からの約束だった。
「確か、『僕は二度と自分の為に自分の力を使わない』」
「ああ。『なら、俺が君の為に力を使う』」
「それが、君たちを助ける理由になったんだ」
 七年前、スザクが俺たちを助ける理由になった、約束。別れてしまうまでの短い間に契った約束。忘れた事は一度もなかった。
「あの頃の君には『俺』なんて似合わなかったね」
「お前だって」
 自然と笑いが零れた。あの頃も似合わないそれに笑った。楽しい想い出だ。それも含め、再会してから鮮やかにあの頃の記憶が蘇る。喧嘩し合った事も、一緒に草原や森を駆け回った事も、ナナリーと三人で遊んだ事も、二人だけで屋根裏で話した事も、総て。
(そうだ、お前は変わった、あの晩)
 『僕』は二度と自分の為に自分の力を使わない、と言った時、何かが変わった。それが俺とナナリーに関係がある事とは解っても、その『何か』は解らないが、確実に。
「……スザク、あの時、どうして俺たちを守りたかったんだ?」
 俺の問い掛けに返事はなく、沈黙だけが返ってくる。真っ直ぐな翠も逸れて。答えたくない、言いたくない。そうスザクが全身で言っているよう。
「スザク?」
「……友達…だから」
「それだけか?」
「……ルルーシュ、その話は……」
 腕を強く引かれ、俺の視界は真っ黒になった。制服の黒ばかりが支配する。
(言いたくない、んだな)
「…ごめん、ルルーシュ」
「構わない。言いたくないなら、言わなくていいんだ」
「でも、君を、ナナリーを守りたい……今も」
 そう苦しそうに言うスザクに、俺は背を撫でる事しか出来なかった。
 父親を殺した事に起因するのかもしれない。漠然と思った。この間、あの教会で、長年スザクが独りで抱えていた罪を初めて知ったから。
 なんであの時俺は、向かい合えなかったのだろう。今更悔いても仕方ない。しかし、悔いる事と、生きろと言う事しか、俺には出来なかった。





 あの時、君たちを助ける理由をくれた事が嬉しかった。ただ助けたいと望んだ理屈のない僕が好きだと言ってくれた事も、嬉しかった。ルルーシュと交わした約束が、今も鮮やかに僕の中に残る。残っているんだ。
 でも、言えない。なんで父さんを殺したのか。君が知ったら、君は君自身を責める。だから、何も言わなかった。
(あの時君は、僕がいると解らずに、ナナリーを助けてくれ、と言ったから。願ったから)
 何をしたのかは、言わない。ただ、己の力を自分の為に使わない、と誓っただけ。それだけ。抜いてしまった刃を納めるには、これしかなかった。
「……俺は…ただ、君たちを喪いたくなかった、だけなんだ……」
 だから、刃を抜いた。重すぎる刃を。
 そして、今も重くのし掛かる罪を抱えた。

Closed...



 理由は今も生きる。俺から与えた理由は、あれが最初で最後。もう与える事はしない。
 理由は今も僕の中に。君を守れる事が、とても嬉しかった。
 さあ、平穏と平和を手に入れる為に。二人の少年は、平行線上を進む。