『俺』を断罪するもの
知られたくなかった。
「……殺ったのか、自分の父親を…」
君だけには、知られたくなかったのに。真実を知ったルルーシュの顔が忘れられない。信じられない、と見開かれた綺麗な紫も。全て、僕が見たい、望んだものじゃなかった。そんなルルーシュの顔を、見たくなかった。
「あ……、僕は…」
(俺、は……)
何を言ったらいい。何と返したらいい。何も、言葉が浮かばない。
(ルルーシュ…)
ただ、その名だけが浮かぶ。
『僕』という仮面が必要だった。今、学園という箱庭に『枢木スザク』が在る為に、必要なもの。『ルルーシュ・ランペルージ』の傍にいる為に。『俺』ではいけない。『僕』でなくてはならなかったんだ。
でも。
今の『枢木スザク』でいる為に被っていた『僕』が剥がれる、壊れる。守りたかった二人を守る為に被った仮面が、音を立てて粉々になる。
(嗚呼、どうすれば……)
『僕』がいなくなってしまっては、駄目。『俺』がいてはいけない。『僕』がいなきゃ駄目なんだ。
壊れるな、『僕』の仮面。
「……『物語』は必要だからな。日本にも、ブリタニアにも」
君も否定してくれない、『俺』を。責めないで、赦してくれる。その言葉は、今の『僕』を肯定する。
「あ……ありがとう…」
それは、『俺』に与えられた、戒めであり、罰、なんだろうか。
「……スザク」
近い声に振り向く間もなく、背にぬくもりが触れた。そして、細い腕に包まれる。
「独りで、心の中で泣いていたんだろ?」
「違うっ…僕は、」
「違わない。泣いてる」
(断罪してくれ…!)
(罰をくれ!)
「知らなかったけど、もう知ったから。だから、俺に甘えたっていい」
耳元で囁かれる言葉は優しく、残酷。
「俺は……お前を、赦す」
嗚呼、ルルーシュの優しさで出来た刃が、『俺』を貫く。真っ直ぐに。赦して欲しい、なんて思わないのに。
「だから、生きろ」
それが、君が与えてくれる戒め?
(苦しいよ…)
「俺は赦すから」
そうか。
その優しさが、『俺』を断罪する、刃。
この苦しさこそが、『俺』に与えられた、罰。
「……ありがとう、ルルーシュ…」
重なった優しい唇に、『俺』は溺れた。
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