正直な鼓動、それでも言葉は
「ねえ、今日行ってもいい?」
「いつでも来い、と言っただろ。遠慮するな」
「でも、一応ね」
変わった、本当に。昔のスザクを知っているから、変化を知った時の驚きは大きかった。
「お前……本当に変わったな」
俺の呟きに、首を傾げながら柔らかい笑みを浮かべるスザクが見下ろしている。こんな顔をしなかった。昔は、常に相手を睨みつけるような、きつい表情ばかり。初めて逢った時も、そんな表情。でも、今はそれとは違う表情が。
何がきっかけで変わった?
(父親を殺したからか?)
七年の間、明かされる事の無かった、真実。スザクの中だけで存在した真実。
(ずっと一人で)
それは重くのし掛かったのだろう。スザクに。だから、『俺』から『僕』へ。口調を柔らかくして。今のスザクがいる。そんなスザクを見ていると、無理をしているように思える。全ての重荷を背負おうと、全てを隠して。
「……辛くないのか?」
「何が?」
「あ……いや、」
声に出すつもりはなかったのに。返ってくる筈の無い言葉に、自分が声に出していた事に気が付いた。
「ルルーシュ」
真っ直ぐ聞いてくるところは変わらない。翠の眼を逸らさず、真っ直ぐと見つめて。そして、疑問ではない、確信を込めた呼びかけも。
「僕は、辛くないよ」
しかし、そうやって七年前のスザクは笑って誤魔化す事も嘘をつく事もしなかった。あの頃は感情的にぶつかってきていたから、正直だったから。
(辛いんだろ?)
本当は辛いから、誤魔化す。自分の中だけに閉じこめて。
「馬鹿……」
本当に、馬鹿だ。何もかも一人で抱え込んで、誰にも知られぬよう笑顔の仮面を被って、日常に紛れ込む。なんて、馬鹿なんだ。本当のお前を、昔とは違う今のお前を見せてくれないのが、悲しい。今のお前も『スザク』なのに。
「スザク」
「ん? ……あ、ちょっ、」
腕を引いてその身体を抱き込んだ。スザクは立っていたから、俺の顔はちょうど心臓の位置に。生きている証である鼓動を刻む、そこ。
(お前は生きてるんだ。それに嘘、偽りはない)
証拠が、この左胸の鼓動なのだから。この鼓動は正直。胸の高鳴り、緊張、それら全てを正直に伝えるのだ。
(だから、お前も辛いなら辛い、って言っていいんだ)
「……正直に、なれ。お前らしくもない」
こんなに手が震えている。鼓動が高鳴っている。本当は辛いくせに。
「辛いなら、辛い。それが正直な心だ」
とくん、と心臓が大きく音を立てた。
「…ありがとう、ルルーシュ」
「辛いのか、今」
「少し。……だから、このままでも?」
(もちろん)
言葉にせず、スザクの身体に回した腕に力を込める事で応えた。
「ありがとう」
抱き締め返された腕は、暖かい。それが、スザク。生きている、今の『スザク』。
「また、辛くなったら言えよ」
「嬉しいな」
そう答えても、お前はもう甘える事はないのだろう。何故か、漠然とその時、思った。確信なんか、無かったけれど。
それでも、今この安らかな一時を壊さずに、このまま。
Closed...