残酷な言葉が創る、歓喜と絶望と後悔と
「……すまない」
使うつもりはなかった。
「すまないっ…!」
使いたくなかった、お前だけには。
この俺のギアスは、命じる力。誰も逆らう事が出来ず、為すがまま。命じられた者は、自分の倫理を、考えを、想いを踏みにじられる。そう理解していた、理解していた筈なのに。
(俺は、スザクの想いを裏切った)
『死ぬ』という望みを、『生きる』という意志に変えて。
(お前に死んで欲しくない)
そう渇望していたのは事実。マオによって明かされた本当の望みを聞いた時愕然としたが、お前には生きていて欲しいんだ。こんな処で死んで欲しくないから。そして、俺も死ぬ訳にはいかないから。
だから、かけたんだ、ギアスを。しかし、スザクが生へ歩んでくれた事への歓喜はほんの少し。
残ったのは、絶望と、後悔。
『うるさい!知った事か、そんなもの!』
『俺は生きなきゃいけないんだっ!!』
上官の命令に反してスザクが叫んだのは、生への執着。命令には絶対服従のスザクからは有り得ない言葉と叫び。
(嗚呼、痛い)
その叫びは刃と化し、俺に容赦なく突き刺さった。“なんて事をしたんだ”と鋭く、痛く。心を、抉るように。
スザクの倫理を、考えを、想いを、全てをねじ曲げ、踏みにじった。
この事実も、俺に深々と刺さった。日本の鋭い刀のように。その傷口から血が溢れるかの如く、喜びだけが流れ出て、この身体に残るのは、絶望と後悔という名の、痛み。
「スザク……」
この痛みは消えない。俺への罰なのだろうから、スザクの意志を曲げた事の。
「…スザクっ……」
なあ、お前はこれからも生きてくれるか?
嗚呼、もう生きるしかないか。俺が命令したから、俺の利己で生かされたのだから。そして、俺はこの絶望と後悔と痛みを共にして生きる。お前の気持ちを全然解っていなかった事への、代償だ。
『生きろ』
なんて、残酷な言葉なのだろう、これは。優しさの仮面を被った、鋭い言葉。
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