そんなに『特別』?


密かな想いは、『特別』に勝てず



「珍しい事もあるものね」
 扉を開けた先の光景にミレイは少々驚きの声を上げた。その問題の人物は、普段は無表情に近く、こんな無防備な姿をさらけ出さないのに。
「疲れていたみたいで」
 教科書を読んでいたスザクが苦笑で返した。問題の人物はその横で、寝ている。ソファの背もたれに寄り掛かっているせいで生じた体勢により首が僅かに傾き、その無防備な表情が光に晒されている。いつもは大人びている彼、ルルーシュが絶対に見せない姿だ。
「また夜更かしかなあ、この子は」
「どうなんでしょう」
 未だに眠るルルーシュを二人して覗き込んだ。
「人前で寝るなんてしないのに……貴方がいるからかな」
「へ?」
 ミレイの意外な言葉にスザクは少しばかり素っ頓狂な声を上げた。
「ルルーシュは、私達の前ではこんな風に寝ないわ」
 ルルーシュのこんな姿を見たのは初めて。ミレイはそっと零した。子供のように無防備で、安らかに、気持ち良さそうに、寝るなんて。絶対にしなかった。
(スザクが特別なのね)
 そう、特別なのだ。幼い頃を共にした親友である『スザク』が。スザクと一緒にいる時と、他の人といる時では、表情が違うから。以前スザクと笑い合っているルルーシュを見て、確固たる確信程ではないが、それなりに確信を抱いていた。その確信は、今はっきりとした形になった。
「スザク……貴方も知っているのね?」
 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアを。
 今は亡き者とされている皇子を。
「……はい、ルルーシュは僕の家に居たので」
 そして、僕にとって初めての親友なんです、とスザクは笑みを浮かべて答えた。そこでまた新たな確信が生まれた。
 スザクにとってもまた『ルルーシュ』は特別、と。その二人の『特別』に介入出来る者は誰一人としていないだろう。これも、今確信した事。
「妬けるわねえ」
 自分の家だけしか知らないかと思っていたのに。ルルーシュの正体も、過去も。だが、居た、一人だけ。『枢木スザク』という人物。
 最愛の母を喪い、盲目で身体が不自由な幼い妹と共に知らぬ国へ追いやられ、知らぬ人の元に預けられて。不安もたくさんあっただろう。そんな誰も信じられる者がいない中、スザクと出逢って。どんな出逢いをしたのかは解らないが、今こんなにも『特別』なのだから、相当仲がいい筈だ。
「大事にしなさいよ」
 何を、とは言わない。解っているだろうから。
「もちろんです」
 そう答えたスザクの翠は、真っ直ぐで優しかった。その翠はまたルルーシュを写す。
(もしかして……)
 真っ直ぐな翠に込められた想いが伝わってくる。友としての感情を越えた、何かが。優しく髪を撫でる仕草も、その何かに満ちていた。
(そう、そうなのね)
「……やっぱり駄目ね」
「どうしました?」
 なんでもない、と答えたけれど、なんでもなくはない。ただ、淡い想いが自分の奥底に秘められるものになっただけ。それだけだが、少し切ない。
「ルルーシュって、鈍感よねえ」
 自分の周りがどんな風に想っているかなんて知らないんだから。
「そうですね。昔から変わらないんだから」

『昔から』

 懐かしそうに紡がれた言葉に胸が痛んだ。その痛みから逃げたくて、じゃあまた、と残して部屋を後にした。まだちょっぴり、胸が痛い。

Closed...



 この想いは閉まって。私に、家と私情、どちらを取るべきか解っているから。だけど、今は少しだけ、ね。