変わらない君、変わった君
体力は、僕の方が上だ。持久力、跳躍力。体力に関するものは僕の方が勝っている。学力は、親友の方がある。ルルーシュは応用力があるから、どんなに難しかろうと解いてしまう。
この違いは、昔から変わらない。崖を登るのも、山道を歩くのも、僕が先頭を行っていた。反対に、解らない事を分析して解読するのを率先していたのは、ルルーシュ。その他は、変わらない。身体的にも。
なのに、変わってしまった事を一つ発見した。同時に、変わっている部分を知った。
「あれ…?」
再び逢った親友と屋上での昼食の後、並んでみたらある事を発見してしまった。正直気付きたくなかった事。もしかして、と思いながら更に近付いて自分の頭の上に手を置いて、親友と比べてみた。その予感は、当たっていた。
「やっぱり……」
「どうした?」
訳が解らない、とルルーシュは首を軽くかしげる。彼はまだ気付いていないようだ。
「君の方が……高い」
「は?」
案の定、ルルーシュからは怪訝の声が返ってきた。
「身長。君の方が高いんだ」
はっきりと言えば、彼は僕の頭のてっぺんを見つめた。時折首をかしげ、何か考えている素振りを見せながら。
「お前、身長いくつだ?」
「176…だけど」
「俺、2センチ高い」
「嘘…!」
「本当。身体検査で計った時、178だった」
2センチもの差があるなんて思いもしなかった。七年前は全然変わらなかったのに。更なるショックの大きさに、フェンスに項垂れた。そんな僕を見て、ルルーシュが苦笑を浮かべて、でも、と続けた。
「2センチなんてそんなに違わないだろ」
「……そう?」
「歩いていても、立っていても、見た目は変わらない。2センチってそんなものだ」
「それでも、大きい差だよ」
少しだけでも高い親友が羨ましくて悔しくて。それでも顔を上げてみると、ルルーシュもフェンスに肘をついていた。
「お前、軍で訓練しただろ?筋肉がつき過ぎると、あまり身長が伸びないらしいぞ」
「そうなの?」
思わぬ情報に眼を丸くして問い返せば、満足げに頷かれた。様々な知識が豊富な彼は、いつも自信満々に、しかしあくまで冷静にその知識を口にする。冷静に、というのは昔から変わらない。懐かしさを覚えながら見上げていると、ルルーシュは更に続けた。
「だから、鍛え過ぎるのも考えものだな」
バシッと腕を軽く叩かれた。微かに衝撃は残っても、痛みはない。彼にあまり体力がない証拠だ。これも昔と同じ。笑いが込み上げて口元を押さえたら、満足げだった表情が不機嫌へと変化し始めた。
「何がおかしい」
「変わらないなって。ルルーシュ、相変わらず体力ないし」
「うるさい。お前が体力馬鹿なだけだ」
「ひどいなあ」
「本当の事だろ」
と、そっぽを向かれてしまった。不機嫌になると顔を合わせなくなるのも、変わらない癖。本当に、懐かしい。そして、こうなったらどうすればいいかも解っていた。
「ルルーシュ」
名前を呼べばいい。そうすれば、こちらに向く。
「ねえ、ルルーシュ」
もう一度。そっと髪にも触れてもみる。さらりと指の上を滑る感触も、変わらない。
「ルルーシュ」
更に呼べば、アメジストを思わせる眼がこちらを向いた。その隙を狙って、少し下から顔を近付けてみる。
「スザ…、っん」
驚く彼を無視して、僕の名前を紡ごうとした唇を塞いだ。いつもより長く、でも触れるだけのキス。
「っ、スザクっ」
離せばその口をついて出てくるのは、戸惑いと羞恥の色を含んだ僕の名前。それは僕を非難するようにも聞こえるけど、そんな事は今の僕にとってどうでもいい。良い事に気付いてしまったから。
「ルルーシュ、好きだよ」
「お前はっ、」
またフェンスにもたれかかってルルーシュを見上げた。下から、というのも悪くない。新たな君を見られるから。限られた時間で新たなるものを見つけ、大事に、大切に、しまっておきたいから。
「ルルーシュ、君は?」
答えは解っているけれど、君の声で。と、思ったけれど。
「っ……」
軽く唇が触れた。僕が体勢を低くしていたから、上から降るようなキスが。
「……こ、これでいいか、スザク」
顔を真っ赤にしてまたそっぽを向くのは、彼の照れ隠し。これも変わっていない。
「素直じゃないな、ルルーシュは」
「うるさい……」
素直じゃないけど、一生懸命なのも、同じ。
(変わらないものも多いけど、何かが変わっている)
何か。それがはっきりとは解らないけれど、漠然と大きな何かが。
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